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思いつくまま気の向くまま、ノベルやら何やら
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アンダガこと、UnderGarden chronicle の
アフターストーリーとして構想していたものの、プロローグ部分です。
本編以上にベタなお涙頂戴な構想ですが
描いてるうちにどうなるかは分かりません。
すでにヴァディスが2割ほど軌道修正されてます。ヘタレ寄りに。

では、拙文ですがお楽しみいただけますよう。

 じっとりと湿った空気がやけに冷たい。

 古びて赤茶けたレンガ造りの地下室に、おおよそ不釣合いな機械が散乱し、石畳の上を大小さまざまのケーブルが埋め尽くしている。ひときわ大きな鉄の箱に据えられた硝子の板がぼうっと光り、それを食い入る様に見つめる少女の指先が軽妙なリズムで手元を叩く。
 ギシ、と椅子が軋んで、彼女がこちらに振り返った。
 「いつまでそこに突っ立ってるつもり」
 「すまない、邪魔をしてはいけないと思って」
 「そう」
 無愛想な返答を残して、彼女はまた向き直りもとの作業に没頭し始めた。
 「後どれ程かかる」
 「もうじきよ」
 彼女の手は相変わらず一寸の躊躇いもなく動き続ける。
 「疲れないか」
 そう訊いた瞬間、彼女の手が止まった。
 「…出来た」
 硝子板に次々映し出される、緑に発光する文字の羅列を見つめて、彼女はうっとりした様にほうと溜息を漏らした。
 暫くの後に硝子板の上の文字は消え、満足そうに彼女は立ち上がろうとして…よろめいた。慌てて抱きかかえる。
 「無茶をするな」
 「ごめんなさい。でも、やっと出来たんだもの」
 彼女は頬を上気させ、その目はきらきらと輝いていた。普段無感情な所為か、やけに眩しく見えた。
 「これでお爺様も喜んでくださるわ」



 片田舎の古都、中央部に位置する大衆食堂。味や雰囲気は中の下と言ったところだが、庶民の昼時には十二分にその役割を果たす。今日も喧騒に包まれていたが、その中に喧しいテーブルがあった。
 「あー、僕、これ食べたいなー。あと、こっちと、こっちも」
 「あっ、それ私も欲しい」
 「あぁ…お二人ともまだ食べちゃうんですか?えと、わたしはこれを追加で」
 いずれ劣らず美しい、あるいは可愛らしいと言った方が相応しいであろう年頃の少女たちだが、その指先はとても胃袋に入るかどうか疑わしい量のメニューを次々と指していく。正直、注文を取りに来たウェイトレスも辟易していた。
 何しろ、この4人組が街を訪れて数日、ずっとこんな調子なのだ。
 「…あ、あの、そちらのお客様は何に…?」
 ウェイトレスが、さっきから奥側の席で水の入ったグラスを抱きかかえて俯いたままの少女に遠慮がちに声を掛けると、蚊の鳴く様な声で返事が返って来た。
 「…水でいいです」
 「はぁ、かしこまりました」
 丁寧にお辞儀を一つすると、ウェイトレスは注文を持ってキッチンへ戻っていってしまった。気の毒な子…という目で見ていたに違いない。
 「本当に水だけでいいの?」
 淡い桃色の髪を手の中でくるくると弄びながら、隣の少女が訊いてきた。可哀想な彼女はもう返事をする気力もなかった。
 「……」
 「しょうがないよ、エリオット。アシュレイは小食なんだからさー」
 「オリバー、小食って…」
 「君達が好き勝手に注文するからだろっ」
 アシュレイがグラスを置いてテーブルにバン、と手を付き訴えた。心なしか涙目だ。その剣幕に隣のエリオットと調子付いていたオリバーはあっけにとられ、申し訳無さそうな割に一番良く食べるカレンも身を縮こまらせた。
 「大体、お財布とか家計とかお勘定とか、分かる?好き勝手に食べるとあっという間になくなるんだよ、お金が。お金がないとどうなるか考えた事ある?」
 「アシュレイが怒るー」
 アシュレイの涙交じりの訴えは、あっさりオリバーにかわされてしまった。お金の概念を持たないということは理解していたつもりだが、まさか学習もしないとは思わなかった。のれんに腕押しとはまさにこの事だろうか。もういっそオリバーに腕押しにしてしまえばいいのに、とアシュレイは胸の中で毒づかずにはいられなかった。
 「…あのね。ここは箱(うち)の中じゃないの。ご飯を食べるにもベッドに寝るにも道具を買うにもお金が要るんだよ。ここまで分かる?だから、お金は大切にしなくちゃいけないし、無駄遣いは絶対駄目って…あー…」
 そうしてアシュレイが説教する傍から、オリバーは食堂に来る前に寄ったらしい店の戦利品を広げ始めた。エリオットも、普段なら食事以外の無駄遣いには難色を示すカレンすら、その品物に見入っている。
 「ねー、でね、これ、今ならおまけでもう一個付けてくれるって言うから、買ってきちゃったんだよぅ」
 「すごーい、オリバー買い物上手」
 「ママの目利きはさすがです!」
 和気藹々と盛り上がる3人、そして次々運ばれてくる料理の皿の影で、アシュレイは一人涙を飲まずにはいられなかった。
 (うぅ…イゾルデ、何とかして…)

 「くしゅんっ」
 所変わって『箱』、地下1階の資料室にて、緋色のローブに身を包んだ女性が鼻を抑えて目を細めた。
 「嫌だなぁ、人形の花粉症なんて聞いた事ない」
 「珍しいわね。鬼の撹乱かしら」
 ちり紙を差し出しながら、純白の髪の女性がくすりと笑った。角襟のブラウスを几帳面に着込んでいる辺り、性格が伺える。
 「鬼とは何よ。鬼とは。どうでもいいけど、鼻に優しいの選んで頂戴」
 「贅沢言わないでよ、イゾルデ」
 受け取った紙でぐしぐしと鼻を擦りながら、イゾルデは先程から捲っていた資料の1ページにふと目を止めた。
 「ねぇ、ヴァディス」
 手招きをして呼び寄せられ、ヴァディスも資料を覗き込む。特に変わりはない、設計図の1枚だった。
 「識別番号012の設計様式?これがどうしたの」
 「これがって訳じゃないけど。ほら、見て」
 言いながら、イゾルデが前のページを捲った。1項目の記述が随分長い。何度か捲ってようやく目的のページに辿り着く。
 「ほら、ここ」
 イゾルデが指差した先には、大きく「010」と記されていた。
 「識別番号010のデータ。おかしいでしょ」
 「おかしいって、別に普通の記録じゃな…!」
 ヴァディスがはっと口を押さえた。
 012の前が010。011の設計記録が欠損している。それも丸ごと。
 「どうして…!」
 「どういう事か説明してもらえる?上層管理官様」

 『箱』の主、彼女らのマスターはその類稀な知恵と魔力で魔術を帯びた品物を鍛える魔導技師だった。その作品は無機物から擬似生命体まで多岐に渡り、イゾルデやヴァディス、アシュレイらもまた彼の手により生み出された人形である。食事をするのはほんの愛嬌に違いない。
 彼は没して既に久しいが、彼が『箱』に残したものは貴重かつ膨大で、中には普通の人間の手に渡ってはかなり危険なものも含まれている。例えば、彼女らのような自動人形やその設計記録データなど。
 「どう、だなんて…」
 戸惑うヴァディスに、イゾルデが厳しく詰め寄った。
 「私が知る限りで、あの几帳面なマスターがデータを丸ごと一つ残し忘れるなんて、絶対にあり得ない。欠番にする位の出来なら、そもそも完璧主義者の彼がナンバリングなんかしてないわ。紛失したなら血相変えて探してたはず、私にはそんな覚えない。そして私達がここに戻ってきてからも、紛失するような事態は絶対になかったし、そもそも本格的に手を入れようと思って中身をチェックしたのが今じゃない。だとしたら、私が下に放り込まれてる間に何かあったとしか思えないのよ」
 「それは、そうだけど…」
 普段ならここで激しい反論を切り返してくるヴァディスが、やけに神妙な面持ちで考え込んでいる。イゾルデは不吉な予感を覚えずにいられなかった。
 「どうなのよ」
 焦れてイゾルデが答えを急かすと、上げたヴァディスの顔から血の気が引いていた。
 「…もしかしたら、あれかもしれないわ」
 「あれ?」
 ヴァディスはぽつりぽつりと語り始めた。

 相当昔の事になる。
 ヴァディスがマスターに『箱』の上階の監視と警護、つまり上層管理官の任を言いつけられる直前、イゾルデらが『箱』の下層に放逐されて暫くの頃のことである。
 その日は珍しくマスターが所用で外に出かけ、『箱』の最上階、地下1階の研究棟に一人取り残されたヴァディスが退屈して部屋を片付けたり料理を作り置いたりしていたところに異変は起こったという。
 部屋中に鋭い機械音が鳴り響く。ただしその音は人間の聞こえる周波数ではなく、人形への警戒通告。
 (――――侵入者!)
 とっさに判断を下したヴァディスは愛用のフルーレを携え、地下1階をくまなく調べ始めた。リビング、広間、通路、研究室、マスターの自室、自然と足音を忍ばせ、息を潜める。警報が誤動作ならいいが、そうでないならいつどこで侵入者に出くわすとも限らない。一見しとやかな女性に見えるが、ヴァディスも人形である。マスターの手と…彼女自身の鍛錬により、普通の人間相手なら決して負けるような使い手ではないレベルの力量を有している。ただし、不意を突かれた場合は話が別だ。直情径行のヴァディスの性格から言って、突然の事態に臨機応変に対応出来る程器用ではない。
 つまり、絶対に隙を見せず、相手の隙を叩ける状況で侵入者を見つけなければならなかった。
 (どこにいるの、ネズミめ)
 最後に、マスターの資料室の前にやってきた。扉が半開きになっている。先程掃除したばかりで、ドアを開けて戻った覚えはない。
 (見つけた…よくもマスターの聖域に、土足で踏み込んだわね)
 ここで気付かれない様に中に踏み込み、侵入者を捕まえればよかったのだが、ヴァディスは我慢が出来なかった。マスターの敵は今すぐ排除とばかりに、派手に飛び込んだのだ。その短絡な程の純粋さが彼女の長所であり、また短所である。
 「大人しくしなさい!」
 本棚を探っていた男に、ヴァディスは盛大にフルーレの切っ先を突きつけた。男は驚いて手に持っていた資料をバサバサっと取り落とし、慌てて両手を挙げて無抵抗の意志を示した。これがヴァディスの油断に拍車をかける。
 「観念するのよ、この悪党。一体何のためにこんなところまで来たの」
 ヴァディスの剣幕にも構わず、男はへらへらと笑い続ける。
 「何がおかしいの」
 「お嬢さんの後ろががら空きだからさ」
 はっとして、ヴァディスは後ろを振り返った。確かに、後ろに注意を払ってはいなかった。侵入者は完全にこの部屋に追い詰めたはずだと、そう思っていたし、実際その通りだったのだが。
 あっけなくヴァディスは男に背を向けてしまった。居もしない伏兵に気をとられて。
 次の瞬間、ガツンと頭に強い衝撃を感じ、そのままヴァディスは気を失った。
 
 「…バッカじゃないの」
 イゾルデが何度目かの溜息をついた。ヴァディスの話が始まってからもう何度繰り返したか最早覚えていなかった。
 「だからよ!あなたにそういう言い方をされるから嫌だったのよ!」
 ムキになって食って掛かろうとするヴァディスの額を抑えて、イゾルデは宥めた。誰かがフォローしてくれればもっと突っ込めるのにという気がしないでもない。
 「まぁまぁ、結局データ1つで済んだから良かったじゃないの。それも完全体ナンバーのものじゃなかったんだし、悪用されてもたかが知れてるわ」
 「でも、でもよ!とんだ失態だわ!マスター、だから私の事…」
 その先は涙に詰まって、ヴァディスは口にする事が出来なかった。怒ったり泣いたり随分忙しいものだとイゾルデはまた一つ溜息を増やした。
 「それにしても…011よね」
 イゾルデの目が、遠くを見ていた。
 「確か、実用化にとても至らない不具合があったんじゃなかったかしら」

 アシュレイはいよいよ底を尽いた財布の中身と、ひいてはウェイトレスと格闘していた。
 「ですから、もう皿洗いでも掃除でも何でもしますから、このお勘定何とかしてください」
 「何とか、と言われましても、この額ですし、私の一存じゃ…」
 「じゃあ上の人呼んで下さい」
 「あ、その間に逃げるつもりなんですね!それは出来ません」
 「逃げませんよ!だからお願いしてるんじゃないですか」
 アシュレイの猛抗議は、所詮大衆食堂のマニュアル店員に通用するものではなかった。うう、と唸って頭を抱えるものの、所持金が増えるわけじゃなし、いっそ連れの問題児どもを売り払って金策しようにも、あんな問題児野放しにする方が悪い事の様な気がしてくる。どうして身内には常識人がいないんだろう。人じゃなくて人形だからか。アシュレイは初めて本気で自らの出生を呪いたい気分だった。
 「これでいいか」
 突然アシュレイの前にぬっと手が突き出された。金貨が10枚。あの3人の暴飲暴食の飲み代にしても、充分過ぎて有り余る額だ。
 「え、あ、は、はい!只今!」
 ウェイトレスが慌ててつり銭を用意する間、アシュレイは目の前に颯爽と現れた救世主の姿を見つめていた。黒のジャケットとパンツをピシッと着こなし、腰に長剣を携えた女性。整然と切り揃えたブロンドの長髪を、後ろで丁寧に結わえている。何より、理知的で端正な顔立ち。瞳には厳しさと優しさに、聡明さが宿っている。真っ当な人は格好も真っ当だと思う。
 「あ、あの、すいません!ありがとうございます!」
 大仰な動きでアシュレイがお辞儀をすると、彼女はふっと笑った。
 「気にしなくていい。困っている者を放っておくなと、私の祖父が毎日言っているだけだ」
 『箱』を出てから金銭的にも常識的にも困らなかったためしのないアシュレイには、酷く心に沁みた。これが人間の暖かさか。機械の私には初めて感じるノイズパターンです。はい、私一生アナタについていきます。もうアナタの盾でも魔王討伐でも世界維持のヨリシロでも何でもお命じください。彼女が主人公で自分が仲間Cくらいの古典的機械人形な、古今東西ありとあらゆるパターンをアシュレイは想像して、それが連れの3人からの逃避である事にようやく気づいた。
 ウェイトレスからつり銭を受け取りながら、アシュレイは真っ当な彼女に問うた。
 「でも、どうしてですか?こんな大金…」
 「さっき言った通りだ。困った時はお互い様だからな」
 「お互い様?」
 アシュレイが首を傾げると、彼女は頭を振った。
 「いや、それは虫のいい話だ。気にするな」
 「や、でも!」
 精一杯、アシュレイは食い下がった。大きい事は出来ないだろうが(連れの問題児を考えれば)、出来るだけの礼はしておきたかった。
 「せめて、何か出来る事はないですか。本当に窮地を救ってくださった恩人なんですから」
 うーん、と彼女が腕組みをした。
 「では、祖父の屋敷に来てもらえないだろうか。もちろん、連れも一緒に」
 「はい、もちろんです!えっと…」
 アシュレイが言葉に詰まると、彼女はまた可笑しそうに笑った。
 「キニアス・ライトリッジ。キニーでいい」
 「じゃあ…キニーさん、ですね。私は…」
 言いかけたアシュレイを、笑ってキニアスが制する。
 「いや、いい。先程散々聞かせてもらったからな、アシュレイ」
 ははは、とアシュレイは乾いた笑いを漏らさずにはいられなかった。ヒートアップしてしまったとはいえ、周りに聞こえるほどの大騒ぎをしてたとは。もうこの店には暫く来られない。
 「では、私は用があるのでこれで失礼するが、後で必ず来てくれ。祖父の屋敷はこの街で一番大きい家だ。分からなければライトリッジ家と言えば皆知っている」
 「はい、じゃあ後ほどきっと伺いますね」
 「ああ、楽しみに待っている」
 アシュレイの返答に満足そうに笑って、キニアスはさっと身を翻して店を後にした。
 彼女の後姿を見送って、アシュレイはふと不安になった。
 何をさせたいんだろう。初対面の私達に。
 何となく、ただならぬ事情があるような気がしてならなかった。
 「アシュレイ、どうしたの」
 突然後ろから肩を叩かれて、アシュレイは飛び上がった。
 「うわっ」
 見るとエリオット達が揃っていた。漸く重い腰を上げて店を出る気になったらしい。
 「今の人、誰?」
 「恩人。主にエリオット達の」
 「ふぇ?僕あの人知らないよ?」
 白々しくも首を傾げるオリバーに一発かましてやりたくなったが、やめた。
 「ご飯代、出してくれたの。ついでに小銭もくれた」
 アシュレイはつり銭もちゃっかり頂いていた。小銭という額では決してなかったが。後々、一旦返すふりをして「受け取れ」と言ってくれるのを待つつもりだった。我ながら、すっかり汚れてしまった。
 「すごい人なのですね!」
 「そうだよ、カレン。だからこれから恩返しに行かなくちゃ」
 カレンの「すごい」が何を指すのかは知らないが、もちろんアシュレイに受けた恩を仇で返すつもりはない。筋は通す。というより、この無邪気な問題児に筋を通させる義務が、保護者としてある。
 いつから保護者になったんだろう。
 「さ、ライトリッジ邸へ行こう」
 こうして、意気揚々と食堂を出たアシュレイ達だったが…まず何事もなく辿り着かなかった事は、想像に難くないと、思う。


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